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新作映画レビュー『ドリーム』は万人のロールモデルだ!

 

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まず結論からいって、とてもポジティブないい作品でした。「抑圧されても誇りを失わない。そして知識とポジティブさによって状況を打破する」という、とてもまっとうに理知的に勇気を与えてくれる作品だと思います。

監督は『ヴィンセントが教えてくれたこと』のセオドア・メルフィ。監督としては本作で2作目なんですね。前作『ヴィンセントが教えてくれたこと』も良作でしたが、今回の『ドリーム』は『ラ・ラ・ランド』の興行収入を上回ったとあって、万人に勧められる秀作だと思います。以下、ネタバレも少々含みつつレビューを書いてまいります。

 

☞『ドリーム』の時代背景~国外では冷戦、国内では人種闘争の時代~

60年代、そして黒人といえば、すぐ思い当たるのは「公民権運動」でしょう。しかし、同時に60年代は米ソ冷戦、とりわけ宇宙開発競争の時代でもありました。1957年のソ連は世界初の人工衛星スプートニクの打ち上げを成功させ、そこから競争がはじまるわけですが、この映画で描かれるのは、1961年にソ連が人類初の有人宇宙旅行、地球周回軌道飛行に成功させてから、1962年にアメリカが地球周回軌道飛行を成功させるまでなんですね。

この時代の黒人の境遇といえば「隔離すれど平等」といって、あらゆる公共施設、作中でも出てくる学校、トイレなども、白人と有色人種で区別されていました。ちなみに公民権が成立し、そういった差別が禁止されるのが1964年ですから、この作品は黒人が権利を主張している真っ只中の時期であり、主張するがゆえに押さえつけも厳しくなっていた時期でした。

まず、この作品の最初のつかみになっているのが、「黒人女性がNASAで働いていた」という知られざる事実ではないでしょうか。当然、私も知りませんでしたし、多くの人もそうなんじゃないかと思います。ゆえに原題「Hidden Figures」すなわち「隠された人々」というタイトルはセンセーショナルな響きを持っているのですが、一方の邦題「ドリーム」はいまいちですね。もともと公開前に日本題に関して、ひと悶着あり話題になりました。

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「ドリーム 私たちのアポロ計画」にならなくてよかったと心底思いますが、原題の響きが好きな自分としては、多少馴染みがなくても原題のままで公開してほしかったと思います。

 

 

☞立ち向かう女性たち

 本作では、NASAで計算を任される女性たち、その中の3人の女性が主役です。彼女たちは飛び級で大学に入り、学位を得た天才でした。作中では、すでにNASAで働いているところから始まりますが、この3人ともNASAに務める前は教師をしていたそうです。人並み外れた頭脳があるにも関わらず、人種差別ゆえに能力を十分に活かす職に就けなかったのです。ただ、NASAに務めているからといって彼女たちの境遇が恵まれたものとは決して言えません。職場は、明らかに小汚く狭いところに閉じ込められていますし、給料も安く、管理職になれないというシーンが出てきます。さらに彼女たちは、人種差別だけでなく性別によっても差別されます。辛いのは、働く女性ゆえに黒人の男性からも偏見を向けられてしまうところですね。ただ、だからといって本作は決して暗く重い作品ではありません。というのも、彼女たちが自分に誇りをもっていて、とても堂々としているんですね。そして常に立ち向かっていくんです。例えば、キャサリンが後に恋にする軍人の彼と話している時に、彼がつい「女なのに、、」といった悪気のない偏見にみちたことを彼女に言ってしまうのですが、その時キャサリンはとっても毅然と反論します。見ているこちらもグズグズさせない態度といいますか。見ている方が喝采を送りながらも励まされてしまうんです。

「hidden figures」の画像検索結果 ※右からドロシー、キャサリン、メアリー

 

 ☞壁を打破する「ポジティブさ」

物語の中で彼女たちはそれぞれに壁にぶつかっていきます。まずメアリー。メアリーは登場人物のなかでも特におしゃれで、皮肉屋で魅力的な人ですね。

彼女はNASAのエンジニアになるべく学校の講義を受けようとするのですが、黒人のため入学が認められません。作中で、差別する側の多くの白人が言うのが「そういう規則だから」とか「面倒をおこすな」ってことなんですね。そこで彼女は裁判を起こすのですが、そこで彼女は裁判官に対して「前例がないなら、あなたが前例を作れば、歴史は変わるわ」というんですね。これには心の中で大喝采でした。彼女たちは堂々と立ち向かって壁を破っていくんですね。

 

 

☞人種・性別ではなく能力を評価してくれる人

登場人物の中で、彼女たちをちゃんと評価してくれる人もいます。キャサリンの上司アル(ケビン・コスナー)と宇宙飛行士のジョン・グレン(グレン・パウエル)の二人ですね。彼らに共通するのは、目的を達成することを最重要視している点ですね。周りの人間がキャサリンを「黒人」「女性」として見ているのに対して、彼ら二人は「マーキュリー計画を成し遂げるために必要な人間」であると見ているわけです。偏見や差別などありません。そのため、彼らがらみのシーンはとても気持ちいいですね。キャサリンはこの二人の存在もあり、存分に能力を発揮させていきます。余談ですが、ジョン・グレンを演じるグレン・パウエルはリチャード・リンクレイター監督の『エブリバディ・ウォンツ・サム』でフィネガンを演じていた方です。私はフィネガンが好きで好きでたまらなかったので、今回グレン・パウエルが登場した時にはめちゃくちゃテンションがあがりましたね。役柄は全然異なりますが、両方ともとにかくナイスガイで、「一緒に酒飲みてぇ」と思わせられるんですね。パンフレットによると彼は「今ハリウッドで最も期待される俳優」らしく、我がことのように嬉しかったですね。

 

f:id:tikyuugi:20171005181919p:plainジョン・グレンを演じるグレン・パウエル

 

☞万人に勧められる理由

この作品の背景には「人種差別」「女性差別」「冷戦構造」といったヘビーな状況がありますが、この作品のテーマは、あくまで彼女たちひとりひとりの「個人」の勇敢な生き方です。たとえ取り巻く状況が違えど、彼女たちの立ち向かっていく姿勢が私たちのロールモデルになりうると思います。