悪夢と地続きの世界が描かれる『ゲット・アウト』(17')
※現在公開中の新作であり、若干のネタバレを含むので注意してください。
悪趣味だと思われるかもしれないが、こういう映画が好きだ。
まるでイーライ・ロス監督作『ホステル』のようだと思った。
『ホステル』は東欧を旅するバックパッカーが、快楽殺人結社に拉致され、殺されそうになるところを抜け出そうと奮闘する話だ。
共通するのが、主人公が「異世界」に身を置いてしまい、なんとも言い難い「不吉な雰囲気」がだんだんと高まっていくというところ。
『ホステル』では、アメリカ人の主人公が、旧共産主義国の東欧にいく。そこは、いまだに活気がなく不穏な雰囲気におおわれている。アメリカから来た若者にとってはまさに「異世界」だ。
一方、『ゲット・アウト』では、主人公は黒人の青年が、彼女(白人)の実家に泊りに行く。実家に着くと、そこでは黒人がメイドや庭師として働いており、主人公はどことなく嫌な印象をうける。そして開かれた親睦会では、裕福そうな白人の中高年しかいない。主人公はさらに居心地の悪さを感じる。不吉な雰囲気がどんどんと高まっていく。
そして、ついに明かされる周囲の人物たちの正体に、観ている者は戦慄する。
『ゲット・アウト』がさらに深みをもっているのが、主人公の過去のトラウマが掘り起こされ、常に付きまとうという点だ。
この二人、すぐに別れるだろ『プリティ・ウーマン』(90')
シンデレラストーリーの面白さは、主人公の女性が周囲から虐げられている所から、王子様がその女性を見出してくれることで、美しく変身していく点にあると思う。
「女性が美しくなっていくプロセス」を観ているのは、気持ちがいい。観ていて楽しい。
ところが、この作品の主人公(ジュリア・ロバーツ)、「娼婦」という虐げられている立場なのなが、すでにかわいいし、一人の人間として自立してるではないか。となると、シンデレラストーリーの面白味がかなり削がれてしてしまう。
例えば、『モンスター』のシャーリーズ・セロン演じる娼婦くらいの虐げられきった女性が美しくなっていく作品だったら、ものすごく面白いだろうなあ。
これがジュリア・ロバーツ演じる娼婦
こちらがシャーリーズ・セロン演じる娼婦
ジャズに漂う哀愁は映画とよく合う『ブルーに生まれついて』(15')
どうしても「自分はジャズのことには詳しくないですが」とエクスキューズしたくなります。本当にその通りなのですが、どうもジャズって敷居が高いような感じがするんです。その分、憧れもあるのですが。
本作『ブルーに生まれついて』は実在するトランぺッター、チェット・ベイカーの伝記映画です。ドラッグ中毒になり落ち目だった彼が、恋人に支えながら音楽で再起を図る様を描いています。
チェット・ベイカーを演じるのが、イーサン・ホーク。実在の人物を描い
た映画を観るとき、本人と演じる役者がどれくらい似ているかがすごく気になります。
こちらがチェット・ベイカー本人
こちらが演じるイーサン・ホーク
まぁ、似ていなくもないという感じですね。
ただ、見られる限りでチェット・ベイカー本人が歌っている映像を観たところ、歌い方や雰囲気は似ていました。
この作品『ブルーに生まれついて』はチェット・ベイカーの楽曲"Born To Be Blue"からとられているのですが、この曲、作品の物語と完全にマッチしていて、もう哀しい哀しい気持ちになるんです。彼のどうしても克服できない弱さも、彼を信じて支える恋人との軋轢も、哀しい。しかし失うものも覚悟の上での彼の最後の行動は、やはり自分は音楽でしか生きられないんだいう彼の究極の選択を見た気がします。
最後に彼が歌う"Born To Be Blue"は、凄まじい哀しさを観る者に訴えます。
里帰りをしたときのような懐かしさ『マイ・フレンド・メモリー』(98')
子供のころに夢中になった映画を大人になって見返すというのは、まるで里帰りをするような感覚に近い。
この『マイ・フレンド・メモリー』は、僕にとってそんな映画の一本だ。
観ている間、ずっと懐かしかった。
二人はお互いの弱みを補うように力を合わせ、彼らを取り巻く状況に反撃する。
堂々と街を闊歩する二人に、思わず喝采を送ってしまう。
まだ間に合うなら、必ず劇場で見てほしい『ダンケルク』
近頃、クリストファーノーランの映画を立て続けに観ていました。
『インセプション』(10') 『インターステラー』(14')
どちらも映像のスペクタクルが凄まじいだけに、これは劇場で見るべきだったなと反省。ということで、クリストファーノーラン監督の新作『ダンケルク』を観てきました。
本当に映画館で観てよかったです。
何より音が凄い。音が怖い。
銃撃が船を貫通する音、戦闘機が迫りくる「キィィィン」という音、船底に流れ込む水の音、様々な音の質感がリアルで生々しいんです。
映画の中で、「銃撃の音」(「ピュンっ」という空気を切り裂くような音)が「怖い」と感じることはありましたが、「戦闘機」が飛ぶ音が「怖い、嫌だ」と感じたのは初めてでした。とにかく、凄まじい音響で、自分もその場にいるような臨場感がありました。作中の青年たち同様に「一刻も早くここから逃げたい」と思っていました。
この『ダンケルク』に関しては、映画を「鑑賞した」というより「体験した」という感じです。まだ間に合うなら、絶対に劇場で見てください。もし、間に合わなければ、ブルーレイで観ることをお勧めします。
辞書へのフェティシズム溢れる作品。『舟を編む』
登場人物が独特な名前なのがなんとなく気にいりません。(横道世之介とか)
今回も「馬締」ってどうなんでしょう。作品の質とは関係ないと思いますが、、
ちなみに「馬締」という苗字の方は全国に数十人いるようです。
人と関わるのが苦手な主人公・馬締光也が、辞書の編集部に配属され物語が始まります。
演じるのは松田龍平さん、こういう役が本当に上手です。
ドラマ『カルテット』でも同じような役でした。
コミュニケーションが苦手な人の挙動、とくに目の動きが本当に上手い。コミュニケーションが苦手な人って、たいてい体の動かし方も不器用なんですよ。運動神経とかではなく、どことなくぎこちないんです。それが目の動きに最も現れると思ってるんですが、その演技が本当にリアルで上手です。他の方では、濱田 岳さんも同様に上手な役者さんだと思います。
主人公は辞書づくりを通して、周囲の人々と打ち解けていきます。
これは彼が「言葉を獲得していく」からなんですね。先輩に勇気をもって話しかけ、惚れた女性に手紙を書きます。つまり言葉が彼と外の世界とをつなぐ橋なんですね。
宮崎あおいの「言葉で言って」というセリフは印象的ですね。
さて、物語以上にこの作品が良かったのが、「辞書へのフェティシズム」が描かれているところですね。
特に、松田龍平と印刷会社の社員が、辞書の紙の素材について話す場面はとっても良かったです。商品の質にこだわった仕事ぶりも見ていて良いんですが、それ以上に、辞書というモノを愛でているような感じが良いんですよね。小川洋子の世界にも通じる気持ちよさですね。
この映画をみると紙の辞書をめくりたくなります。
言葉を獲得すること、世男